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北京で生活する際の予防接種のポイント

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今回は北京で過ごす上での予防接種のポイントについてお伝えします。大きくまとめると3点です。

 

Ⅰ.母子手帳は自分のものを持参して接種歴を確認する。母親に渡したままにしない。
Ⅱ.日本のルーチン予防接種を完遂する
Ⅲ.中国特有のものについて予防接種をする

 

Ⅰ.母子手帳は自分のものを持参して接種歴を確認する。母親に渡したままにしない。

まず基本はここになります。母子手帳は予防接種状況を確認できるもっとも重要な情報源です。大人の方では、母親がそのまま持っていてご自身で手元においておられない場合も多いと思いますが、是非自分の母子手帳は自分の手元に置かれることをお勧めします。予防接種欄をご両親に携帯電話で撮影してもらい、送ってもらう、などでも良いでしょう。

 

Ⅱ.日本のルーチン予防接種を完遂する

日本の予防接種はここ10年弱ほどで随分整ってきました。逆を言えばそれまでは「予防接種後進国」とも言われていました。今の日本の予防接種はどこの国で過ごすにも非常に基本的なものなので、全てを確実に打っておくことをお勧めしますが、日本の予防接種制度上で抜け落ちが起きている部分をピックアップします。

[麻疹]

  • 先進国でも感染後1000人に1人が死ぬ病気
  • 空気感染で感染力が極めて強い
  • 予防接種は2回必要
  • 30代以降は予防接種1回のみの可能性が高い
  • 北京は8ヶ月、1歳半、6歳の3回スケジュール
  • 先進国でも感染後1000人に1人が死ぬ病気

麻疹は予防接種によって感染そのものが少なくなってはいますが、未だに先進国でも感染者1000人に1人は死亡する病気です。世界的にみても小児の死亡原因の上位に入る病気で、実際に死亡者の殆どが5歳未満です。

  • 空気感染で感染力が極めて強い

結核と並んで空気感染をする病気として有名です。非常に感染力が強く、同じ電車、同じ部屋などの空間を共有した状態で感染が成立します。最近でもコンサート会場を介しての流行や、柔道の大会参加者での感染などが報告されています。現在日本で流行が問題となっていますが、流行そのものについては中国のほうが多いとされています。

  • 予防接種は2回必要

上記のように感染力も高く死亡率も高い病気ではありますが、予防接種で効果的に予防できる病気の代表でもあります。1回の予防接種で概ね90%の人が抗体を獲得します。しかし逆に言うと10%はそれでも感染してしまうため、ほぼ感染しない状況を作るには2回の予防接種が必要です。

2回予防接種を受けたたかどうかは、明確に記録として残っている必要があります。ご自身の母子手帳、予防接種記録をみて2回の接種がない場合は追加の接種が必要と基本的には考えてください。ご実家に問い合わせ母子手帳を取り出し、予防接種のページをスマートフォンなどで撮影し送ってもらっても良いと思います。ちなみに米国に留学する際は厳密にこの2回の接種確認が求められます。

  • 30代以降は予防接種1回のみの可能性が高い

日本では予防接種行政上、1回しか接種をされていない世代がしばらくあります。

麻疹予防接種が開始されたのは1978年ですが1回のみです。2回接種になったのは2006年、途中中高生に2008年から2011年まで緊急処置として2回目接種が追加されました。

簡単に言うと現在28歳以下の方には2回の予防接種機会が与えられている状況です。逆に言えばそれ以上の年代である30代以降の方はまず1回の接種しかないと考えて良いでしょう。この世代の方へは、繰り返しになりますが2回の予防接種記録が明確にある場合を除いて追加の予防接種を強くおすすめします。

  • 北京は8ヶ月、1歳半、6歳の3回スケジュール

中国は日本よりも一般に流行が多い、と前述しました。それもあり北京市の予防接種は日本よりも幾分前倒しになります。日本では定期接種は1歳、6歳(小学校就学前)になっていますが、北京市は8ヶ月でMR(麻疹風疹)、1歳半でMMR(麻疹風疹ムンプス)、6歳でMMRとなっています。なるべく早く免疫をつけるために8ヶ月から開始するのですが、まだこの時期の乳児の免疫応答が充分でなく1回とカウントできないことがあるため1歳半に追加、その結果として正味3回となっています。北京で過ごされる場合は私としては上記スケジュールをおすすめします。

麻疹予防接種2回の間隔は最短1ヶ月あいていれば良いとされています。周囲で流行が出てしまっているなどの状況があれば6歳を待たず打つことも可能です。ちなみに中国には麻疹単独のワクチンがありません、そのためMR(麻疹風疹)MMR(麻疹風疹ムンプス)で代用します。

 

[風疹]

風疹は症状が軽く、それそのもので重症化することが少ない病気です。しかし妊婦さんに感染した場合、先天性風疹症候群という重い障害を胎児にかなり高頻度で起こすため、社会的に大きな問題になっています。

これも麻疹と同様、生涯2回必要、MRワクチンで1歳、小学校就学前で接種します。そして接種が不十分な世代も同様です。30〜40代のこれから妊娠を考える方に免疫が不十分であることが大問題となっています。これから妊娠を考えている女性はもちろん、ご主人も感染源になります。風疹は特にこれから妊娠出産を計画しておられるご夫婦に、2回接種があるか確認を強くお勧めします。

 

[水痘]

いわゆる「みずぼうそう」ですが、脳炎での死亡例が低頻度ながらあります。さらに年齢が上がるに連れて重症度があがり、特に13歳以上では高頻度で入院が発生し、重症例も増えます。また低頻度ですが妊婦さんが感染すると風疹のように胎児に障害を残す疾患としても知られています。

水痘が定期接種に加わったのは、ごく最近の2014年10月からです。それも1歳から3歳になる直前まで、というかなり限定された期間での定期接種になっています。そのため、打っていない方が相応にお子さんでいるかもしれません。基本的には生涯2回接種が必要です。全てのお子さんで確認をおすすめしますが、特に水痘にかかったことのない13歳以上の方は急いで接種をお勧めします。

 

[ムンプス]

いわゆる「おたふくかぜ」です。日本では未だに定期接種に加わっていません。ご両親が意識をしていないと接種していない可能性が高い予防接種です。もとより難聴を後遺症として残すことは以前から知られていました。しかし2018年の発表で頻度が300人弱に1人とかなり高いことが報告され衝撃を与えています。そのうち8割以上が高度難聴であり、率直に言って安全にかかれる病気ではありません。実際私もムンプス難聴の方に数人お会いしたことがあります。諸外国では一般的にMMR(麻疹・風疹・ムンプス)ワクチンとして流通し定期接種になっているところがほとんどです。北京ではムンプス単独ワクチンは入手が難しいかもしれませんが、MMRで代用することが可能です。基本的には生涯2回接種が必要で、北京市では1歳半、6歳のタイミングで定期接種として提供されています。

 

[日本脳炎]

ブタと蚊を媒介して感染する、つまり蚊に刺されて起こる脳炎ですが、死亡率が30%と高く、生き残っても神経学的後遺症(発達の遅れなど)を45〜70%の高率で残す怖い病気です。2015年に千葉県で0歳児が発症したことが話題を呼びました。北京も流行地域に入っており、同時に北京市の小児定期予防接種にも1歳から組み込まれています。

日本では自治体によって打ち始める時期が異なりますが、3歳からというところが多いと思います。しかし年齢を待つ必要は医学上はありません。予防接種そのものは生後6ヶ月から可能で、私としてはこの月齢からをおすすめします。注意点は北海道は流行が無かったため定期接種がない、という点です。そのため北海道で幼少期を過ごされた方はまず接種されていません。

3回の基礎接種があれば、その後は5年に1回程度追加接種をすれば免疫が維持できるとされています。中国におられる間はこの追加接種をお勧めします。ちなみに中国では一般的に日本とは異なり生ワクチンが使用されていますが、日本と同じ不活化ワクチンもあります。予防接種を中国でされる際はどちらを打つか希望を明確に伝えるほうが良いでしょう。

 

[破傷風]

土壌に普通に住んでいる菌で、錆びた釘を踏抜くなどの傷が汚れる場合に感染します。発症すると呼吸筋麻痺で人工呼吸器管理になるなど致死性の高い病気です。予防接種がなくても予防のために外傷後に破傷風グロブリン製剤を打つ、という方法が取れますが、そもそも中国の地方都市では手に入らない可能性が高いのでやはり予防接種で免疫をつけておく必要があります。

以前は三種混合(DTP)、現在は四種混合のなかに含まれています。逆を言えば三種混合DTPが定期接種になる前の世代の方は普通にかかってしまいます。全国的に接種が開始されたのが1968年なので、1968年以前に生まれた人は免疫がない可能性が高いといえます。

北京では破傷風単独のワクチンがなかなか手に入りにくいのが難点です。ただし、破傷風予防接種の2回目から3回目の間隔はかなり融通が効き1年半まで待てます。1回目2回目を日本で短期間で打ってしまい3回目は次の一時帰国時に、という形でもよいでしょう。3回の基礎免疫を得た後は5年から10年おきに1回の追加接種が必要です。

 

Ⅲ.中国特有のものについて接種する

 

日本のルーチン以外で重要性の高いものをピックアップします。中には世界的には必須になっているものの日本ではまだのものもあります。

 

[A型肝炎]

食べ物を介して口から感染する肝炎です。食品衛生のある程度整っている北京、上海でも必須とされています。ちなみに日本以外のアジアで過ごすならきちんと打っておくべき予防接種とされており、北京でも小児定期予防接種に1歳半から入っています。

日本のワクチンと海外のワクチンでも互換性が概ねあるだろう、とも言われています。スケジュール上1回目と2回目を受けて、3回目を打つ前に北京に来てしまった、という方が多いと思いますが、意外と2回目から3回目の接種間隔は融通が効きます。少なくとも6ヶ月以上、1年半までは良いだろう、とされているので一時帰国時に3回めを打つ、ということでも大丈夫ですし、北京で3回目を打ってしまっても良いと思います。

ちなみに日本は3回の接種ですが、多くの海外のワクチンは2回接種です。

 

[腸チフス]

サルモネラの一種によっておこる病気です。やはりA型肝炎同様、汚染された食品が感染経路となりますが、人から人にも伝染していきます。日本でも生卵などによるサルモネラ感染で亡くなってしまう子供がいたりもしますが、やはり重症例では亡くなる場合があります。

予防接種は1回で概ね3年ほど持続しますが、50~80%程度の効果と言われるので、効果が微妙といえば微妙かもしれません。

特に地方出張で衛生の良くない場所で食事をする機会がある方などは接種が勧められます。しかし予防接種は日本でも海外旅行相談ができる医療機関にはありますが、北京では難しいかもしれません。

 

[B型肝炎]

体液を介して感染する肝炎です。輸血、違法注射などが有名ですが、性感染症として有名で、感染経路としてはおそらくもっとも一般的です。感染力がとにかく強くHIVウイルスの100倍ほどあり、歯ブラシの共用でも感染すると言われています。医療現場では針刺し事故で何もしなければ感染率が30%です。慢性化すると最終的に肝硬変、肝臓がんに至るため予防が非常に重要となります。年齢が低くなるほど慢性化しやすいという特徴もあります。

中国ではB型肝炎のウイルス保有率が高く(10%ほど)、特に中国で性風俗含め性的接触があるなら予防接種が必須です。小さなお子さんの場合、濃厚接触によって両親祖父母から感染するケースもあり、幼稚園など多数の子どもが濃厚に接触しあう環境でもやはり接種が望まれます。ワクチンの立ち位置としてはWHO(世界保健機構)が「全ての人が受けておくべきワクチン」としています。2016年10月からやっと定期接種となりました(北京では随分前から定期接種ですが)。これは北京にいる、いないにかかわらず皆様接種をお勧めします。接種スケジュールはA型肝炎と同様でやはり3回目はかなり融通が効きます。1年半までは空いても良いので帰国時に3回目も可能ですし、北京で接種も可能です。

 

[狂犬病]

犬に限らず、猫、コウモリ、狐など様々な哺乳類に噛まれることで感染します。噛まれなければかかりませんが、発症するとまず100%死んでしまう病気なので、そこのリスクをどう考えるかで接種するかどうかが分かれます。中国全土で毎年2000人ほど亡くなっています。一応「北京市街地で過ごす旅行者」の場合は積極的な接種までは推奨されていません。しかし長期滞在する、郊外に出ることもある、特に子供で動物がいると近づいていってしまう場合はやはり接種がある方が安全と思います。

破傷風と同様、予防接種を打っていない場合は狂犬病グロブリン製剤を打つ必要がありますが、やはり入手できる場所が中国国内でかなり限定されます。予防接種を打っていればグロブリンは打つ必要が無いこと、とにかく発症するとほぼ確実に死んでしまう病気であること、などを考えるとやはり接種する方が無難でしょう。北京市内では狂犬病予防接種ができる施設が指定されています。百度で「北京市狂犬病免疫预防门诊」と検索すると出てきます。

ちなみに狂犬病にかかっている小動物は10日ほどで死んでしまうので、噛んだ動物が10日以上生きていれば狂犬病にはかかっていない、と判断できます。

 

以上です。長文にお付き合いいただきありがとうございました。まだ細々とした部分はありますが、予防接種に関してその他疑問点などあれば、またいつでもご相談いただければと思います。

 

文責:
北京二十一世紀医院 医療部 副主任
亀田総合病院 診療部 医師
日本プライマリ・ケア連合学会認定 家庭医療専門医/指導医
本山哲也