4月から北京にいらっしゃった方も多いと思いますが、北京では、残念ながら日本のように病院が「よりどりみどり」というわけにはいきません。それでも、上海や北京はまだ恵まれた方で、中国でも、日本語で、ましてや日本人の先生の診察を受けることができる都市・地域は非常に限られています。さらに他の国々では、英語さえ通じないところも多く、そのような国で生活している在留邦人からは、それでも北京が羨ましがられるのは仕方のないことでしょう。しかし、いざ病気や怪我をして病院に行くと、いろいろ不自由なことや不満が出てくるのもまた、仕方のないことです。
そこで今回は、(日本に帰ってからも使える)病院とのつきあいかたについて、少しだけお話ししましょう。。
なんだか、つじつまの合わない滑り出しですが、今回はこのニュースのつじつまの合わないことについてお話ししましょう。
まず皆さんが病気や怪我で病院に行ったとします。入院にならない限り、きっといくつかの薬を処方してもらって帰ることになるのでしょうが、このとき、渡された薬を言われたとおりに飲んでも(塗り薬なら、塗っても)一向に症状が回復しないとき、あなたはどうしますか? 「あの医者の薬は治らない」と考え、違う病院に行った。という話をよく聞きます。その気持ちは十分理解できますが、しかしこれはあまり良い方法とは言えません。中には、効果がすぐに現れない薬もありますし、病気によっては回復に時間がかかるものもあるのですが、たとえ薬が本当に効かなかったとしても、ということです。 私たち医師の治療とは、診断がつけば自ずと(いくつかの選択肢はありますが)治療方針は決まってくるものが多く、つまり、このような場合、医師の診断自体が間違っていた可能性があります。しかし、ここでもまだ慌てないで下さい。いわゆる「誤診」と決めつけてしまうには早すぎます。では何なのか、なぜ、このようなことが起こってしまうのでしょうか。
そこでまず、医師がどのようにして診断という目標に到達するのかお話ししましょう。初診では特に、患者さんの既往歴(いままでの傷病の履歴)、家族の病歴、生活歴や、時には仕事や家庭の内情まで、おおよそその時の症状とは全く関係ないと患者さんには感じられることまで聴き取りながら、その問診結果と症状とを照らし合わせ、まず、可能性のある様々な疾患を推理します。もちろん、怪我など、見ただけで診断できるものもありますが、それでも合併症の危険度など、怪我の状況を詳細に聞くことは大事です。病気であれば、さらに症状はいつ頃からか、どの程度か、周囲に同じ症状の人がいるか、など、具合が悪くて早く治してもらいたいと思っている患者さんには申し訳ないくらい、いろんな質問が必要になってきます。そしてそれらを手がかりとして、その時の症状を起こしている「犯人」をあぶり出していきます。よく例えられますが、警察や探偵と同じような作業です。そしてついに「犯人=診断」にたどり着くのですが、それでも人間の体が相手である以上、その診断に100%の自信を持てる医師はまずいないと思います。あるいは、犯人は確定しなくとも、数名の「重要参考人」まで絞れることもあれば、かなり多い数の「容疑者」を抱えたまま、捜査が進まなくなることも少なくありません。体温や血圧、聴診や触診、それに血液検査やレントゲンなど、診断の手助けになる「物的証拠」を集め、さらに追いつめようと努力しますが、それでもいくつかの診断(「鑑別診断」と呼ばれます)が残ってしまうことも、ままあります。その場合、我々は今までの経験やデータに基づき、可能性の高いものから、犯人と仮定して治療を始めます。これを「診断的治療」と呼んだりしますが、度重なる診察や検査は、治療の遅れにつながるだけでなく、身体的にも費用的にも患者さんの負担になるため、限られた時間と手がかりで始めなければならない、いわば「見切り発車的」治療であり、そのため残念ながら、必ずしも最初から正解を得られるとは限りません。ですから、治療経過を見ながら、症状の好転が見込めないと判断すれば、診断や治療方針を根本的に変更することも時には必要となり、さらに、病気や症状は、教科書に載っているような典型的なものばかりではありませんので、例えその診断が正解であっても、やはり経過を見ながら細かな治療方針の修正が必要になります。
このような一連の診察・診断・治療という医師の仕事を理解して頂ければ、冒頭の、薬を使ったが効かないから次の病院へ・・・というのが、得策でないことがおわかりでしょう。(おそらくは)次の病院でも同じような推理の繰り返しになり、結局真犯人を捕まえるのが遅くなる可能性が高いのです。幸運にもこの時に、「前の病院ではこの薬をもらったのですが効かなくて・・・」とこぼすと、新主治医は手がかりが一つ増えますので、いきなり正解にたどり着き、患者さんの信頼を一気に得ることもあるでしょう。でも、それは決して新しい主治医がとりわけ「名医」なわけでも(本当に名医だったらスミマセン。)前の先生が「ヤブ医者だった」というわけでもないのです。 医師に「先生の薬、ちっとも効きませんでしたよ。」と言うのは抵抗もあるでしょう。「効き目のない薬を飲まされた。あんな病院に二度と行きたくない。」と怒る気持ちもわかります。でも、警察と同じく「ホシ」を挙げるために努力している医師ならば、決してイヤな顔をしたりせず、親身に次の手を打ってくれると思います。(指示どおりに薬も飲まずに文句言うのはなしですよ。)患者さんからその後何の連絡もなければ、私たちは「きっと治ったんだろう。」と勝手に都合の良い解釈をしてしまいます。ですから、治らなかったときこそぜひ再受診して、治らないことをはっきり告げて下さい。そして一つでも多くの手がかりを私たちに下さい。それが結果として、最もホンボシ逮捕の近道になると思います。
ついでですが、今回の話から、診察室に入ってくるなり開口一番、「先生、点滴して、○○と××(薬品名)を下さい。」と症状も言わないまま、自分で処方や処置を決めてしまうのも、「ただの風邪みたいなんで、一日で治して下さい。」と無茶を言うのも、まだ病名もはっきりしていないのに、「私は忙しいんで、お薬は治るまでの分、一度にまとめて今日下さいね。」と迫られるのも、さらには「ウチのばあさんが出がけに頭痛いって言うんだけど、ついでに痛み止めか何かもらえますかね?」と診たこともない患者さんの治療を頼まれるのも、医者としては非常に困るってこと、わかって頂けますか?
なお、このコラムでは、なかなか個別に応じて差し上げることができない在留邦人の方の健康相談の窓口としても、皆様からの御意見、御質問を受け付けたいと思っております。残念ながら全てにはお応えできませんが、できるだけこの紙面をお借りしてお応えしたいと思いますので、下記アドレスまで御遠慮なくメールをお送り下さい。