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医者の不養生 Vol9-子は宝

出所:在中国日本国大使館 作者:医務官 稲富雄人 日期:2008-11-15 クリック数:
 現在の日本では、昔と違って子を「宝」とまで思う風潮は薄れてきたような気がします。しかし、子供が大事なものであることは今も昔も世界中のあらゆる国において変わりありません。
  
  中国では以前から「一人っ子政策」と呼ばれる少子化推進政策が行われてきました。少子化問題に悩む日本とは正反対ですが、中国のこの方針は大変厳しいもので、二人目の子供を出産しようものなら、多額の罰金が科せられるだけでなく、その親は職をも失ってしまうと聞きました。そのため、多くの中国人は何とか跡継ぎになる男の子を産みたいと一粒種に願いを掛けるとも聞きました。中国の産科では出産まで性別を明かしてはならないという決まりもそのためにあるようです。しかし、それも今や大都市ではむしろ日本と同様に、男の子であろうと女の子であろうと、かけがえのない一人っ子を大事に育てることにそれほど大きな不満を持っている人は少ないようです。北京や上海といった大都市では、これも日本と同様に家業を継ぐことも少なくなり、核家族化が進み、養育費の高騰や我が子の将来を考えると、奇しくも自ずと日本と同じ道をたどることになったのかも知れません。そして親は大切な一人っ子に、注げるだけの愛情を注ぎ、かけられるだけの費用をかけ、本当に大事に育てられている姿には過保護ともとれる反面、少し羨ましい気持ちすら感じてしまいます。中国語では赤ん坊のことを英語のbabyの音をあてて「宝宝」や「宝貝」と表記することもあるようで、我々日本人には理不尽とも思える数々の出来事に対しては驚くほど寛容な、さしもの中国人も、そんな大切な宝物に降りかかる災難にはさすがに黙ってはいられないようで、ことさらそれが人災だとなると、その憤りは相当なものですが、中国人ならずとも親であれば当然の感情だと思います。

  市販されている粉ミルクの一部に問題が見つかりました。これまでも粉ミルクに問題があった事例はありましたが、またもや、といった事態です。しかも今回は被害の規模も大きいことから、以前に増して大きな問題になっています。根本的な問題である「母乳がよいのか人工乳がよいのか?」という問いに対しては、それぞれ一長一短があり、医学的にも産婦人科医や小児科医の意見によると、必ずしも簡単に白黒をつけられるものではないようです。ただ、いろいろな要因はあるにしろ、粉ミルクを選んだ母親に多い傾向として、夫婦の「共働き」が挙げられるようです。子供により良い環境や教育を・・・と一念発起して共働きを選択した夫婦もいるかも知れません。そして自分が選んだ粉ミルクによって唯一の子供が病気になった、あるいは命を落としたということになると、どれほどやるせなく、つらいことでしょう。特に今年は国民悲願の五輪の年。一生に一度の子供の誕生はせっかくならばこの記念すべき年に・・・と願った親は少なくありません。中国では日本と違い、出産は帝王切開が非常にポピュラーであり、割増料金を払えば希望の日時に出産することも可能です。事実、多くの赤ん坊が8月8日に生まれました。今年は例年以上に出産の多い年なのです。そういう意味でも、今回の粉ミルクの一件はさらに罪深い一件になってしまったと感じるのは私だけではないでしょう。

  取り立てて言うまでもなく、中国には、そして日本にもまだまだ「食の安全」を疑問視せざるを得ない事件が後を絶ちません。私も子を持つ親の一人として、そして一人の医者として、少なくとも食べ物に関しては、この国には、「医食同源」を掲げる国にあって堂々と日本をいさめる立場であって欲しいものだと切に願うのですが・・・。

  
  なお、このコラムでは、なかなか個別に応じて差し上げることができない在留邦人の方の健康相談の窓口としても、皆様からの御意見、御質問を受け付けたいと思っております。残念ながら全てにはお応えできませんが、できるだけこの紙面をお借りしてお応えしたいと思いますので、下記アドレスまで御遠慮なくメールをお送り下さい。

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