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医者の不養生 Vol.11-心のゆとり

出所:在中国日本国大使館 作者:医務官 稲富雄人 日期:2009-02-19 クリック数:
ついに身近な北京から鳥インフルエンザ感染者が発生し、さらに不幸なことにお亡くなりになるという、我々にとって非常にショッキングな出来事が起こってしまいました。

  さらにはこの感染者発生を皮切りに、中国各地で散発的に患者発生が発表されています。これに前後して我々大使館も、北京のみならず、何度もセミナーや説明会といった名目で皆さんにお話ししてきましたので、そういった機会に参加された方もいらっしゃるでしょうし、このコラムでも、今まで何度か鳥インフルエンザ、新型インフルエンザについて触れてきましたので、今回の患者発生をより身近な恐怖として感じた方も少なくないかも知れません。
確かに、私たちが行ったセミナーや説明会の大きな目的の一つには、皆さんに「他人事ではない」という危機感を持って頂き、「では今自分は何をすべきか考えて頂く」ということがありました。そしてそれはまだ全てではないにしろ、それなりに多くの在留邦人の方に伝わったと信じています。その証拠に、最近、北京市内の医療機関へのタミフル(抗インフルエンザウイルス薬)についての問い合わせが急増したと聞きましたし、中には在庫がないクリニックに対して窓口で声を荒げた邦人の方もいらっしゃったという話もインターネットに載っていました。「声を荒げられた」医療機関の方には申し訳ないのですが、それだけ皆さんの関心と危機感が高まったことについては、私としてはむしろ嬉しく思っています。
ただ皆さん、過熱しすぎないようにして下さい。もちろん、今さら「心配することありませんよ」などと、いい加減な気休めを言うつもりはありませんし、どんなにオブラートにくるんだ言い方をしても、「新型インフルエンザ」は、今の人類には防ぎようのない、いつか必ず発生する怖い病気であることには違いありません。のんびりしている暇もないかも知れません。でも、不安のあまり、良く考え、冷静に対応することを忘れてしまっては、本来出せるはずの良い結果も出ないのではないでしょうか。私たちも、何も突然皆さんを怖がらせているわけではありません。数年前からずっと同じようなことを繰り返し言っているに過ぎないのです。
それは、日本に住んでいる日本人より中国やインドネシア、ベトナムなどに住んでいる日本人の方がより不安に思うのは当然でしょうし、一年程前から日本でも本格的に危機感が強くなってきたので、加速度的にその不安が増すのは私とて同じです。しかしそれでも、いや、それならなおさら、自分にとって最適(最良だったかどうかはあくまで結果論ですので。)だと思われる道を、よく考えて選んで下さい。そのためには、自分が身を置いているこの環境をもう一度落ち着いて見渡すことも必要かも知れません。その上で選べる選択肢を洗い出し、そして選んで下さい。それでもその選択は、今後状況が変わったり、あるいは自分の気が変わったりした時には、もう一度考えなおす必要が出てくるかも知れませんし、その時間的余裕も十分あるのかも知れません。タミフルにしても、備蓄することは一つの選択肢にはなるでしょうが、それが本当に最終的に良い結果を生むかどうかは誰にもわかりませんし、ましてや北京で入手することが唯一無二の方法でもないはずです。
どうも、私を含め日本人は何事につけ、気が短いのか、ついつい焦ってしまうことが多いようです。そういう意味では、私たちの周りの中国人にもよく見られる、いわゆる「大陸系」の人たちの「おおらかさ」を見習うべきなのかも知れませんね。一言でおおらかだとひとくくりにされた人たちからは文句も聞こえてきそうですが、いずれにしても国や民族によって、やはり考え方にある程度の違いがあるのは事実のようで、たとえば、日本政府が皆さんにお勧めしている家庭内の備蓄(とは何のことかさっぱりわからないという方は、すぐ外務省や大使館のHPを見て下さい!)について、実は他の国も同じようにそれぞれの自国民に備蓄を勧めているのですが、これがアメリカだと、外国に住むことは各人の自由であるかわりに、そこで新型インフルエンザが発生しても(基本的に病気に限らず戦争や地震、津波などの全ての異常事態に対して)自己責任であるという、日本人にはちょっと冷たすぎるような感じがするスタンスをとる一方、地域のコミュニティーやボランティアに積極的に参加し、何かが起こった時にはお互いが助け合うことを勧めています。いかにもボランティア好きな国民性がうかがえますが、現代の日本人には、この「となり組」的発想はいささか古臭く、違和感を感じる向きもあるでしょう。しかしなるほど、「遠くの親戚より近くの他人」というのもまた、一理あるように思えます。
おおらかさでは世界でも屈指と名高いニュージーランドの政府は、水や食料、日用品、医薬品といった備蓄品以外に、(引きこもり中はヒマなので)本やビデオ、ゲームまで備蓄するよう指導しています。たとえ籠城中であっても時間を楽しむゆとりを忘れてはいけないということでしょうか。何度も言うようですが、新型インフルエンザは私たちにとって決して楽観できる事態でないことに変わりはありません。でも、このニュージーランドの備蓄品リストを初めて見た時、私は目からウロコが落ちた気がしたと同時に、ちょっと気持ちに余裕ができ、その反面、少し焦りすぎていた自分に気付きました。このような心のゆとり、私たち日本人ももう少し学んでもよいのではないでしょうか。
 
なお、このコラムでは、なかなか個別に応じて差し上げることができない在留邦人の方の健康相談の窓口としても、皆様からの御意見、御質問を受け付けたいと思っております。残念ながら全てにはお応えできませんが、できるだけこの紙面をお借りしてお応えしたいと思いますので、下記アドレスまで御遠慮なくメールをお送り下さい。
medical@eoj.cn
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