さて、何だかんだと他愛もない事を書いているこのコラム「医者の不養生」も、掲載が丸2年を迎え、最近は何かの折に北京の日本人の方に「コラム、読んでます。」と言われることも増え、そのたびに恥ずかしくもありながら、(毎回締め切りに追われてひねり出している原稿も)読者がいるんだと思うと、つい産みの苦しみを忘れて喜んでしまうものです。さらに今回からは(次回からだったらすみません)天津の日本人の方にも読んでいただけるようになるとのこと、嬉しさも恥ずかしさも一段とアップ!というものです。
というわけで、天津在住の方にはろくに挨拶もなく、いきなり本題に入ってしまいますが、また人が出入りする春がやってきました。中国の思い出を胸に帰国する方、中国への想いを胸に大陸に足を踏み入れる方、その思いもさまざまだと思いますが、毎年この時期には初めて中国に来る方に何か役に立つネタはないかと考えつつも、結局いつものように最近気がついたことをお話しすることにしましょう。
今年は花粉症(かどうか正確にはわかりませんが)、つまりアレルギー性の鼻炎や結膜炎が例年以上に多い気がします。
純粋に花粉に関して言えば、日本で花粉症だった人が中国に来て、全く症状が出なくなることも珍しくなく、「中国に花粉はない」と思う方もいらっしゃるようですが、そうではないと思います。植物の種類は違えども、花粉はやはり飛んでいると思います。(たぶん。)ですから、非常に強いアレルギー体質の方は、やはり中国でも花粉症に悩まされる可能性はあります。ただ、症状が出るとすると1年目より2年目の春の方が出やすいと言えます。なぜでしょう。
アレルギーとは免疫の過剰反応です。つまり、本来それほど毛嫌いする必要のないものを「敵」(免疫学では”not self”=「非自己」と表現したりします)とみなし、体はこれを排除すべく攻撃(炎症)し、鼻水や涙で洗い流そうとします。ところが初めて出会った敵には戦闘準備が間に合わず、攻撃も中途半端です。そこで、1回戦はとにかく敵の顔をしっかり覚えることを目標にし、2回戦に望みを託して黙々と武器(抗体)を製造、備蓄します。そして待ちに待った翌年の第2回戦、全力で戦います。花粉症持ちの本人にしてみればいい迷惑です。以前にもこのコラムで書いた、春になるとフワフワと飛ぶ綿毛、これも2年目にはアレルギーを起こす人が結構います。
それにしても今年はアレルギーが多く見られます。去年赴任した人が特に多いというわけでもないのに。北京在住数十年の中国人にも今年はアレルギー性鼻炎が見られます。アレルギーを起こす物質(アレルゲンといいます)は花粉だけでなく、化学物質や粉塵でも同じような反応は起こりますので、あるいは遥か彼方から飛んでくる黄砂に混じった物質なども関係しているのかも知れません。
アレルギーは治らないのか?という質問をよく受けます。事実、あまりアレルギーが治るという話は皆さんも聞いたことがないかもしれません。実はアレルギーの治療の根本は、「アレルギーを起こさないこと」と言われています。つまり、アレルギーが起こってから治療するのではいつまでたっても治らないということです。体がアレルギー反応を起こさず、平和な日々が続けば、それまで体内で準備した抗体(武器)を使う機会がなく、そのうち抗体価(配備量)が減ってきます。しかし、その途中で一旦再び戦闘体制になると、以前にも増して武器を準備しますので、結局「もとのもくあみ」となってしまいます。ストレスや体質も影響しますので、体質改善のためには漢方も有効なことがあります。せっかく中国にいるのですから、試してみるのも良いかも知れません。アレルギー反応を抑える治療薬(予防薬)には、抗ヒスタミン剤、ステロイドなど、その免疫反応~炎症反応の体内で起こる各反応段階のいずれかを抑制する薬が用いられます。ステロイドホルモン剤は副作用を気にする人も多いのですが、局所療法(目薬や点鼻薬など)として用いる分にはまず心配はありませんし、実際、以前恐れられたほど怖い薬ではありません。ただし、やはり医師の指示に従って服用することがもっとも大切です。また、古くからある抗ヒスタミン剤は、飲むとどうしてもだるさや眠気を感じることが多く、車の運転や機械の操縦ができなかったりするので、特に働く人には不人気でした。しかし、最近の抗アレルギー剤はこのような副作用もほとんどなく、1日1錠飲むだけで効くものもあり、ずっと使いやすくなってきました。症状に合わせて目薬や点鼻薬と飲み薬を組み合わせて使うのがもっとも効果的でしょう。日本でも最近は多くなりましたが、定期的に注射をすることでアレルギーの反応を予防することも欧米ではよく行われます。できるだけ「いくさ」のない体内を維持して下さい。
アレルギーの専門家によると、花粉症や一部の喘息、アトピーなど、アレルギー性、あるいは自己免疫性と言われる疾患は、先進国であればあるほど、都会であればあるほど多くなる傾向にあるという意見があるようです。この理由として、環境汚染やストレスを挙げる説もありますが、最近は、「先進国の都市部の子供が清潔すぎるのが原因」とする説もあるようです。
何でも乳幼児期に、細菌やウイルスなどの病原体に暴露(接触)する機会が多いと、免疫機能が過剰に反応しにくくなり、アレルギーを起こしにくいそうな。まあ、本物の敵が頻繁に攻めてくれば、余計な仮想敵に免疫反応を起こす余裕もなくなるってことなのでしょうか。確かに、田舎育ちの私などは子供の頃、いつも泥にまみれ、道端の草を食べたり、水たまりの水を飲んだり(私だけ?)、友達にも一人くらいは、いつも鼻を垂らした子がいましたが、同級生に花粉症やアトピーはいなかった気もします。それに比べると今の子供たちはみんな小奇麗です。北京も中国人も以前より小奇麗になったような気もしますので、そう考えるとなんだか、この意外な学説にも納得してしまいます。でも、だからと言って、自分の子供が健康な鼻たれ小僧か、小奇麗な花粉症か、どちらがいいかと言われても・・・やっぱり困りますね。
なお、このコラムでは、なかなか個別に応じて差し上げることができない在留邦人の方の健康相談の窓口としても、皆様からの御意見、御質問を受け付けたいと思っております。残念ながら全てにはお応えできませんが、できるだけこの紙面をお借りしてお応えしたいと思いますので、下記アドレスまで御遠慮なくメールをお送り下さい。
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