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医者の不養生 vol.16―よそ行きのパジャマ

出所:在中国日本国大使館 作者:医務官 稲富雄人 日期:2009-12-09 クリック数:

 昨年は北京オリンピック、今年は建国60周年、来年は上海万博と中国にとって国際的な注目を余儀なくされる大舞台が続きます。ここ数年の急激な経済成長もさることながら、このような国際的催しを経て、今まで「世界の常識」にはどうにも疎かったと感じるこの国も、確実に「国際化」していると感じるのは私だけではないでしょう。

 私は数ヶ月に一度、地方都市の総領事館に出張することがあり、その時にこのような話をすると、「北京ではそうかも知れませんが、地方はまだまだ以前のままですよ。」という声を聞きます。なるほど、北京や上海などの大都市に比べるとその速度は遅いかも知れません。しかし、ずっと住んでいると気づかなくても、私のようにたまに訪れると、地方都市も着実に国際化の波は押し寄せていると感じますし、今後はさらにその速度も増し、地方都市在住の人たちもきっと体感することと思っています。ただ、本当の意味での「国際化」とは、この国の国民一人一人が世界の目を意識し、自分たちの今までの「普通」が「普通ではないかも知れない」と気づかなければ、いくら一部の政府指導者だけが躍起になっても、決してなし得ないことなのかも知れません。

 以前にも少しお話ししましたが、中国は世界で最も喫煙人口が多い「タバコ天国」です。私は医師でありながらも、厳しい「禁煙論者」ではありません。しかし、いわゆる「副流煙」といわれるもので非喫煙者の健康を害するのは、やはり喫煙者の横暴と言わざるを得ないでしょう。そのためにも、最低限分煙を行うべきでしょうし、実際に中国でも次第に分煙/禁煙の場所が目につくようになってきました。特に来年の万博を控えた上海では、今まで「あたりまえ」と思っていたことが予想以上に国際社会の「おかしい」という指摘の対象となること(例えばオリンピック開会式など)を教訓として、かなり「国際標準」を意識しているように感じます。

 ただ、本当に国民が理解しているかどうかは若干疑問が残ることもあり、レストランの分煙にしても、禁煙席に座っているにもかかわらず、しばらくするとわざわざ喫煙席から灰皿を持ってきてたばこを吸い始める。空港ロビーの喫煙室は、あまりに煙が充満しているからか、ご丁寧にドアを荷物で押さえて開放状態にする。また、これは理解と言うよりマナーかも知れませんが、車の窓からは火のついたたばこを投げ捨てる。このようなことを何の疑問も持たずにしてしまう国民には、あるいはとにかく頭ごなしに「規制」してしまう方が手っ取り早いのかも知れません。私個人としては、まず理解してもらわなければ、このようなやり方では国際化も「うわべだけ」で終わってしまいそうで心配なのですが・・・。

 前回のコラムでもお話ししましたが、どうも「うわべだけ」というのもここ中国の文化では「あたりまえ」のことになってしまっている気がします。「まず形から入る」という方法も否定はしません。しかし形だけで終わってしまってはやはり本物にはなり得ないでしょう。

 この「うわべだけ」文化は、医療においてもしばしば問題を起こします。最近は中国系の病院でも診察室の個室化は普通になりましたが、その一方で、北京でも一部の診察室は未だ他の多くの患者さんが見守る中での「公開診察」が行われています。プライバシーという概念がそもそもないのでしょうか、患者さんから特に不満も出ないようです。ですから、せっかくの個室で診察を受けていても、平気で他の患者さんが出入りしますし、先生も病院スタッフもこれを止めることはほとんどないようです。とにかく、自分であまり考えずに言われたとおりにするというのもまた中国の文化なのでしょうか、言い伝えのようなものも未だに根強く残っており、例えば赤ん坊をアイさんに預けた経験がある人はきっと日本では聞いたことがない「中国での常識」にびっくりしたことがあるのではないでしょうか。そしてそれは現代医学の城であるはずの病院でも常識としてまかり通ることが多いのです。しかし中国には4千年を越す歴史と経験があり、一見迷信に思われる言い伝えにも、科学的に証明されてこそいないものの、事実その通りであることも少なくありません。中国医学にしても、漢方治療にしても、確実に効果があることはわかっていながら、日本人には今ひとつ信用されないのもそのあたりが理由でしょう。ただ、西洋医学においてはやはり「言い伝え」ではすまされないことも多く、検査にしても治療にしても、医師はきちんと説明する必要があると思うのですが、私自身が今まで中国の病院で「なぜ?」と聞いた質問にどれだけ「昔からそうだから」「そう決められているから」という答えが返ってきたことでしょう。

 報道によると、国際化が急がれる上海では、先頃パジャマ姿での外出が禁止されたという話を聞きました。これも私にはどうしても滑稽に思えてしようがありません。万博で中国のみっともない姿を外国に見せたくないということなのかも知れませんが、私たち普通の日本人であれば、言われなくてもパジャマで銀座に買い物に行く人はまずいないでしょうし、逆に、日本でこんな条例ができて、パジャマにサンダル、綿入り袢纏でも引っかけて隣のコンビニにおでんでも買いに行こうと外に出たら警察に捕まった、なんてことになっても、これはこれでどうにも不自由で仕方ありません。だいたい、パジャマ姿と、夏によく見かける、ズボンの裾とシャツをまくり上げてお腹を出して街を歩くのと、みっともなさではさほど差がないように思うのは私だけでしょうか。そもそも普通の服とパジャマは根本的にどこで見分けるのでしょう?もちろん一見してパジャマとわかるものもありますが、パジャマで外出するのが違反だという以上、それがパジャマであると断言する定義みたいなものが必要な気がします。

 専門的にはあるのかもしれませんが、私は今までそんなこと考えたこともありませんでしたので疑問は深まるばかりです。素材で見分けようとしても、綿もあれば絹もあるでしょうし、デザインに至っては、それこそ着心地が楽であれば全てパジャマとして使えそうですし、そのうち、よそ行きにも着ていけるようなパジャマなんか売り出されたらどうするんでしょう?そうでなくとも最近はスウェットなんかをパジャマとして使う人も多くなったようですから、こういう人たちはきっとそのまま外出しても捕まらないんでしょうね。やはりよくわからない決まりです。

 なお、このコラムでは、なかなか個別に応じて差し上げることができない在留邦人の方の健康相談の窓口としても、皆様からの御意見、御質問を受け付けたいと思っております。残念ながら全てにはお応えできませんが、できるだけこの紙面をお借りしてお応えしたいと思いますので、下記アドレスまで御遠慮なくメールをお送り下さい。medical@eoj.cn

 また、このコラムは、医務官が北京で暮らす中で、あくまで一人の日本人医師の目線で日々感じたことを書き綴ったものであり、大使館としての公的見解や方針とは何ら関係ありません。


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